(薔薇王の葬列アニメ11話対応)
今回もかなり短めなのですが、感想記事の長さはほぼ説明の分量で変わってきて、本編の面白さとは全然相関しませんので!すごい回なんですよ27話も。
27話で描かれるテュークスベリーの戦いに関してはかなり詳細に史料準拠で、そこにオリジナルのアレンジがうまく挟まれているように思います。一寸工夫のない記事タイトルですが、史料へのリスペクトや史料アレンジの面白さに気づかされ、このタイトルにしました。
24話のバーネットの戦いについても、史料準拠で、そこに『ヘンリー6世』(以下、HⅥ)の親子の殺し合いや、『リチャード3世』の太陽の話を重ねた凄い展開になっていると思います。
リチャードの戦術について
27話の冒頭では、史料で指摘されている状況、ランカスター軍が橋を通れなくされていたなかで軍を進め、テュークスベリーに先に到着して有利な高台に布陣したこと、ヨーク軍が夜間に行軍を急いだこと、兵の数はランカスター軍の方が勝っていた一方、大砲を含む武器はヨーク軍が勝っていたことなどが示されます。中央がエドワード王、左翼がリチャード、右翼がヘイスティングスというのも史料通り。そこから、特に兵力と布陣ではランカスター軍が有利であったところを、大砲での攻撃と森に潜ませた伏兵によって勝利した展開がドラマティックに描かれています。
ヨーク側の不利な状況を好転させる戦略を提案し実行するのがリチャードで(これは史料によって、リチャードの功績にされているものと、エドワード王の功績にされているものがあるようですが)、それがリチャードの軍事的才能と26話からの自暴自棄や憎しみとを同時に表すのも素晴らしいです。また、6巻24・25話もそうでしたが、1巻から成長し才能開花したリチャードの活躍を満喫する一方、今話と28話でも(リチャード視点では)また新たな裏切りに直面し憎しみが増幅するのを心が締めつけられるような思いで読むことになります。
大砲や伏兵についての話は、wikiの方がその参考文献にあがっている『薔薇戦争新史』より詳細で、また今話の内容に近いリチャードの功績としての記述になっています。
でも英語版の方では、エドワード王が指示したと記述されているんですよね。
Battle of Tewkesbury - Wikipedia
サマセット公達の前で開戦を宣言するマーガレットと王子エドワードのやりとりは、HⅥを少し変えたものでしょう。
アンの入れ替わりについて
開戦前夜に、アンは貴方だけが「家族」だからと王子エドワードに逃げるように頼みますが、エドワードはランカスターが勝つから「俺を信じろ」「お前は」「生まれて初めての…友達だ」と言います。アンとエドワードの関係もお互いを大切に思う気持ちが深まる描写になっていて、それが心温まると同時に辛くなる『薔薇』仕様。2人とも恋愛の対象はリチャードなのに、リチャードとの想いはすれ違っていて、この2人の間でむしろお互いの理解が築かれているのも皮肉と言えば皮肉です。そして、アンは大切に思うからこそエドワードを騙して身代わりになり、エドワードの方は、それに怒りながらも〈誰かを代わりに死なせるようなマネをアンがするか…?優しいあいつが…〉と、誰が影武者になったか気づく流れです。
このアンの入れ替わりエピソード、何かオマージュがあるだろうかとしばらく考えたのですが、今のところ思いつきません。ある意味、義母マーガレットと示し合わせた“ベッド・トリック”とも言えますが、本来のベッド・トリック(ベッドを共にする約束をして別の女性と入れ替わってしまう)が出てくる『終わりよければすべてよし』や『尺には尺を』とはあまり重ならないし……。
エドワードを殴って気絶させ自分が戦場に出てくるアンは、どちらかというと、ここでも『リア王』のコーディーリアっぽいかもしれません。愛情深くておとなしそうなのに、リア王奪還の戦場に自ら出てきて“イングランド軍を迎え撃つ用意はできている”なんて言ってしまうのがコーディーリアです(そしてそこに夫のフランス王はいません)。
ただ、アンは指揮を執るまではできず、サマセット公から側面攻撃をするので続いてくれと言われてもそれが上手くいきません。(エドワードであっても動けたかどうかはわかりませんが。)上記wikiの二者、『薔薇戦争新史』で、記述は異なるのですが、サマセットがリチャード軍に阻まれたり伏兵から攻撃されたりした上に、ランカスターの中央部隊が続いて動かなかったことがランカスター側の敗因になったようです。この辺のことを初めて知りましたが、アンの入れ替わりの話が、サマセットが援軍が来ないことに焦れ、アンを擁する中央部隊がうまく動けないまま敗走することにつなげられていることがわかります。史料を知ると、改めて細部まで工夫されていると感じます。
リチャードと王子エドワードとの闘いについて
目覚めたエドワードの方は、戦場に駆けつけて森に兵が潜んでいることを知り、ランカスター軍に知らせようとしてリチャードに遭遇しました。(エドワードが修道院にいた設定も、史料的にはマーガレットが修道院にいたことを踏まえた描写と思われます。)エドワードがランカスターに情報を知らせようとしたためリチャードには彼が敵側ということまではわかるけれども、平服なので誰であるのかまではわからないという展開も巧みです。
敵なら「通す理由はない」と闘おうとするリチャードと、リチャードを斬りたくないと言うエドワード。エドワードが避けようとしてもリチャードが追ってきて剣での応戦になり、リチャードの剣が折れたところでエドワードはリチャードを抱きしめます。「俺が、おまえと……闘えないのは……、おまえの、ことが……」とエドワードが言いかけた時、周囲にヨーク兵達が迫ってきた音でお互いが我に帰り、その隙をついてリチャードはエドワードの剣を奪って戦場に戻ります。
(次の28話の感想時点で『コリオレイナス』はやっぱり違うかなと考えたものの、一応そのまま残しておきます。)
このシーンと28話は、雰囲気的になんとなく『コリオレイナス』と被りました。最近立て続けに観ているせいでの連想という気はしますが、コリオレイナスとオーフィディアス、しかも、どちらがどちらとも言えない感じです。コリオレイナスとオーフィディアスは、敵対国の将として憎み合いつつ尊敬もしている関係です。『コリオレイナス』で2人が最初に闘うシーンは、オーフィディアスが負けそうなところに部下が加勢して命拾いをします。その後コリオレイナスが国を追放され、オーフィディアスの下に行こうと面会した時には、オーフィディアスは彼が名乗るまでコリオレイナスだと気づかず(ここまではリチャードがオーフィディアス的)、コリオレイナスとわかった後は、演出にもよりますが、殺すかに見せて彼を抱きしめ“妻のことは大好きだが、その妻を迎えた時より嬉しい”(大意)と歓迎します(ここはエドワードがオーフィディアス的)。しかしその後、(この辺は演出によって解釈が異なりますが)コリオレイナスは家族(母と妻)の懇願を優先することになり、オーフィディアスはコリオレイナスが裏切ったとして愛憎の中で殺すのです。エドワードは、コリオレイナスと異なり自分の意思で参戦を断念した訳ではありませんが、結果的に母と妻の希望通りになっており、かつ、28話ではアンの希望とは逆に彼女を守るために自分を危険に晒します。ここはエドワードがコリオレイナス的で、アンとエドワードに裏切られたと思うリチャードがオーフィディアス的に思えます。
「ランカスターの王子が逃げていくぞ」の声に、勿論アンとは気づかないまま、しかも王子がエドワードとは思わないまま、殺そうと追いかけるリチャードで、28話に続きます。
↑こちらの記事では、オーフィディアスをバッキンガムに擬えてしまいましたが……。