『薔薇王』にシェイクスピアをさがして

菅野文先生の『薔薇王の葬列』についてシェイクスピア原案との関係を中心にひたすら語ります

おうちシアター備忘録配信終了作品・感想

おうちシアター備忘録で紹介し終了した作品について、3本を残すことにしました。それぞれメモ程度の短い感想です。『冬物語』繋がりで無理矢理のようにご紹介した『ザ・チェリスト』でしたが(勿論、私目線ながら)『薔薇王』っぽくてですね。目次のクリックでそれぞれの箇所に飛べます。

 

ロイヤル・バレエ 『ザ・チェリスト

冬物語』繋がりで、ロイヤル・オペラが、マルセリーノ・サンベによるジョージ・フロイド事件追悼の小作品を掲載してアンチレイシズムのツイートを行ったことなどを掲載していました。

 

 

 

同じくロイヤル・バレエのダンサーで作家のジョセフ・シズンズは詩を発表。こちらはロイヤルのFBが取り上げていました。“Your silence is a luxury not all of us can afford.”という言葉は重いですね。ある時は自分が人に言いたかったことでもありますが、圧倒的に多くの場合は言われる立場だったりそう振舞っているよな……と。

www.facebook.com

 

『ザ・チェリスト』は、チェリストのジャクリーヌ・デュプレについてのバレエで、チェロをサンベが踊り、眠りから目覚めたチェロが彼女を愛する話になっています。“ジャクリーヌ・デュプレがチェロから愛された”という設定と擬人化によるバレエ表現の素晴らしさは勿論ですが、このブログ的に注目なのは、チェロが、幼少の頃から彼女を愛している見守りポジションになっていることです。ケイツビーみたいなんですよ!

 

チェリスト(ジャクリーヌ)はリチャードとは重なりませんが、夫となる指揮者(ダニエル・バレンボイム)が、また一寸バッキンガムみがあります。才能でも惹かれ合い、名声と音楽の喜びを共有して彼女を攫っていきます。でも2人が喜びを共有している間は、寂しそうではありつつ、チェロも穏やかに眺めているわけですが、辛いのは彼女が壊れていく時です。疲れ、多発性硬化症の症状が出始めて思うように演奏ができなくなり、苛立つ彼女に寄り添うかのようなチェロ。(ここの箇所、パワフルな指揮者が強行軍の演奏ツアーを決行し、病気に倒れる以前に消耗したのかと思いましたが、ロイヤル・バレエのシノプシスを見たら、消耗自体が病気のせいだったという話なのかもしれません。)

 

チェリストが『冬物語』でハーマイオニーを演じたローレン・カスバートソン、チェロが羊飼い(パーディタの兄)役だったサンベ、指揮者がポリクシニーズボヘミア王)役のマシュー・ボールという繋がりでした(MARQUEE.TV配信版)。そしてFBで詩の朗読をしたシズンズも出演しています!

 

音楽の視覚化も、見立てのマイムのような動きも美しく、物語にすっと入っていける作品です。有名なチェロ曲が使われているので、それも楽しめます。カスバートソンのたおやかさと情感の表現も素晴らしく、『冬物語』で陽気な羊飼い役だったサンベは、役によってこんなに変わるのかと思うほどセクシーで素敵でした。

 

チェリスト、チェロ、指揮者のパ・ド・トロワはまだ観られるのでリンクします。

 


The Cellist – Pas de trois (Cuthbertson, Ball, Sambé, The Royal Ballet)

 

 

ストラトフォード・フェスティバル 『テンペスト

無料配信は終了しましたが、On Demandリストにはあがっています。

www.stratfordfestival.ca

 

テンペスト』も素敵な作品でした。プロスペローを女性=元女王の設定にしていますが、それ以外は比較的原作イメージに忠実な『テンペスト』の感じがしました。MARQUEE.TVの方のオール・フィメールの『テンペスト』ともまた違って、プロスペローは老賢者的、後半では元君主の風格。嵐の場面もうまく作られていて、魔法や精霊がファンタジックでうっとりするような舞台でした。魔法の本も王冠も捨てながらプロスペローが語る最後の独白がよくて、シェイクスピアが自身の最後の作品としてのメッセージを込めたんじゃないか、と思わされました。

 

www.youtube.com

 

 

ピータ・ブルック演出、エイドリアン・レスター主演『ハムレット

2002年のものが無料配信されました。ポローニアス役だったB.マイヤースがコロナで亡くなったとのことで追悼だったのかもしれません。

 

ピーター・ブルックらしいミニマルな(?)仕上がりの『ハムレット』です。「報復せよ、しかし心を汚すな」という矛盾する使命を引き受けてしまった若者ハムレットの劇にされているそうです。エイドリアン・レスターのハムレットは、王位継承者というより、繊細で品がある点で”sweet prince”な感じがして素敵。(←ホレーシオ に“Good night sweet prince”という台詞があります。)レスターは現代の若者に見える点がよい、とブルックは言っていますが、むしろ純粋でどこか高貴な印象です。ブルック演出の登場人物は全体的に悪役も含めて高潔な印象になるからかもしれません。マイヤースのポローニアスも盗み見はしていても、なんだか賢明な内大臣という感じでした。常連の笈田ヨシも出ていて渋い……。

 

ただ、今観ると、その分オフィーリアもガートルードも女性の葛藤はあまり伝わってこないかな、と思えます。もともと『ハムレット』自体がそういう作品とも言えますが、葛藤が見える演技・演出もあったりするので。

 

 

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クリストファー    写真AC