『薔薇王』にシェイクスピアをさがして

菅野文先生の『薔薇王の葬列』についてシェイクスピア原案との関係を中心にひたすら語ります

ウィーン国立バレエ(配信)『冬物語』感想

クリストファー・ウィールドン振付、2024年11月公演、20~22日配信。

 

紹介動画です。


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とても素敵な作品で、シェイクスピアの原作版より共感的で見やすいと旧twitterでお勧めしたものの、え、こんなにDV的怖さが出ていたっけ……アラートしなくてごめんなさい、という気持ちになりました。うっかりしていただけかもしれませんし、ブレンダン・セイのシチリア王リオンティーズが怖い感じがするんでしょうか。素晴らしい役作りとは言えます。嫉妬妄想を抱いてからはかなり病んじゃっている感もありつつ、なんとなくエドワード・ワトソンの同役だと苦悩の方が、セイは怒りの方が強調されている気がするんですよね。その一方で、息子のマミリアスが亡くなってショックを受ける箇所など(リオンティーズ自身のせいですが)第1幕ですでに可哀想にもなってきます。

 

第2幕のボヘミアのシーンについてここで書くのは順番が悪いのですが、第1幕の後に気持ちがぱーっと浮き立つ構成も素敵です。この構成で気持ちが開放されて、第1幕の怖いシーンの印象が薄まっていて、改めて観ると怖く感じたのかもとも思いました。

 

同作の構成などは以前の記事↓で書いているので、今回は主にキャスト感想中心に粗々で。

baraoushakes.hatenablog.com

 

ハーマイオニはヒョジュン・カン。『椿姫』でのマノン役やガラ公演での印象から、華やかな感じになるかと予想していたらそうではなく、愛情深い暖かみと母親らしさを感じるハーマイオニでした。第3幕でのリオンティーズとのパ・ド・ドゥでは、序盤は複雑な表情や生気のない動きに、亡くした息子を想いおそらくリオンティーズを愛していてもすぐに許すことに葛藤があるよう。徐々に彼の謝罪を受け入れ心を開き、彼女自身は彼を許したかったのだと思えます。私の勝手な見方かもと思ったら、以下の動画で類似の説明がされていて、そう表現しているのだとわかりました。ハーマイオニは最初はリオンティーズに目を合わせず、それが互いに見つめ合うことで和解するとセイが語っていて、“そういう仕草で伝わるのか〜”と思いました。

 


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木本全優さんのポリクシニーズは美しいラインの踊りで、中盤から短気で怒りっぽさが出る役柄ながら、やはり上品に見えますね。ロイヤル・バレエの配信で見た2つのバージョンでは、リオンティーズとポリクシニーズが対照的に違うキャラの印象でしたが、今作のセイと木本さんは雰囲気が似ている気がしてそれが意外でした。体格はかなり違うし、木本ポリクシニーズは髭もつけておそらく違いを示しているのに、踊りの質が似ているのかも……。木本さんにこれまで小柄な印象はなかったんですが、セイと並ぶと小柄で、リオンティーズが嫉妬でポリクシニーズを攻撃するシーンが一層暴力的に見えた面はある気がします。

 

ポーリーナは、『椿姫』では主役だったケテヴァン・パパヴァ。『冬物語』を観たのが今回で3回目だからだと思いますが、彼女の夫でリオンティーズの臣下、アンティゴナスとの親愛の情もきちんと描かれていることに気づきました。生まれたばかりのパーディタをリオンティーズに会わせようとするポーリーナと、それを心配して一旦止めるアンティゴナスのパ・ド・ドゥが印象に残りました。ポーリーナの責任感やアンティゴナスが彼女に説得される様子、2人の愛情が感じられます。アンティゴナスのZsolt Törökもよかったです(読み方がわからなくてごめんなさい)。第3幕の序盤で、ポーリーナがリオンティーズと共にハーマイオニとマミリアスの彫像(=終盤のものでなく作成された彫像)に祈る場面では、パパヴァ・ポーリーナには、彼女の隠している企み=「魔法」を感じました。こここそ私の勝手な見方かもしれませんが、リオンティーズの様子を見ながら秘密を明かす時をうかがっているような視線があるように思われて。そして、元戯曲の、リオンティーズを責めるようなポーリーナの台詞もそういう解釈もできるなと気づかされます。

 

その場面で、セイ・リオンティーズが彫像に手を重ねる仕草には、マミリアスへの愛と強い後悔が伝わります。その後、助けを求めてボヘミアの王子フロリゼル達が来ると、リオンティーズは彼らに自分の子を重ねて見ているのだなと思えました。「私がいまのお二人のようにりっぱに成長した息子と娘を見ることができたなら」(『冬物語小田島雄志訳、白水社)という台詞通りの感じ。こういう感情表現が説得的で、だから彼らに助力しようとしたのだろうと思えました。終盤のパ・ド・ドゥでのカンのハーマイオニについては上で書き、リオンティーズが主役なので書き方としては逆かもしれないものの、カンのハーマイオニの感情に呼応して許しを求めたり感極まったりする感情のやりとりもとてもよかったです。

 

play.wiener-staatsoper.at

 

キャスト(配信サイトのものが消えてしまう可能性があるのでこちらにも載せます)

Leontes, König von Sizilien Brendan Saye
Hermione, Königin von Sizilien Hyo-Jung Kang
Perdita, Prinzessin von Sizilien Ioanna Avraam
Mamillius, Prinz von Sizilien Julius Urga
Paulina, Erste Hofdame der Königin Ketevan Papava
Antigonus, ihr Ehemann & Erster Hofmeister des König Leontes Zsolt Török
Polixenes, König von Böhmen Masayu Kimoto
Florizel, Prinz von Böhmen Davide Dato
Steward, Erster Hofmeister des König Polixenes Calogero Failla
Ein Schäfervater Eno Peci
Clown, Sohn des Schäfers Duccio Tariello
Eine junge Schäferin Sinthia Liz