『薔薇王』にシェイクスピアをさがして

菅野文先生の『薔薇王の葬列』についてシェイクスピア原案との関係を中心にひたすら語ります

(祝・放映)シス・カンパニー、三谷幸喜翻案『昭和から騒ぎ』感想

シス・カンパニー公演、三谷幸喜翻案・演出『昭和から騒ぎ』、2025年上演。

 

No: 5041107|「写真AC」

 

13日にWOWOWで放送ですね! とても笑える話になっていて、キャスト全員がよかったし、戦後間もない頃の夏の白の衣装も素敵でした。演者の魅力がうまく引き出されていて、それを観る楽しみを味わえる作品だと思います。彩の国『マクベス』より前に配信で観たのですが、『マクベス』を観たりその他忙しかったのもあって書く時機を逸してしまっていました。機を逸したのもあるんですが、配信か別の動画かで、主演の大泉洋さんが冗談交じりで“何にも後に残らない話”と紹介していて、その感覚がわかるというか、『マクベス』の方は(四苦八苦しつつ)何か書いておきたくなったのに対し、こちらの方は観て満足して書かなくてもいいかーという気分になったためもありました。でも祝・放映の機会でお勧めがてら書いておこうかな、と(←お勧めならもっと早く書け、なんですが)。

www.siscompany.com

↑こちらでは紹介動画などもかなり見られます

 

www.fashion-press.net

engekisengen.com

 

翻案の特徴としては人物がかなり整理・省略され、各人物の見せ場やキャラクターの濃さが増す形になり、話の流れ的にはすっきりした感じがしました。もっとも、巡査の毒淵については複数役が混ざって立ち位置や行動原理がなぞになりますが、とぼけた味でシュールな作りになっていてそれで解決!みたいな。原作との対応は以下の感じと思います。

 

原作          今作               キャスト
ベネディック     紅沢木偶太郎(べにさわでくたろう) 大泉洋
ベアトリス      びわこ               宮沢りえ
クローディオ     尾上定九郎(おのえさだくろう)   竜星涼
ヒーロー       ひろこ               松本穂香
(ドン・ペドロ=ベネディックとクローディオが仕えるアラゴン領主 今作では登場しない荒事座座長)
ドン・ジョン(ドン・ペドロの弟) 荒木どん平       松島庄汰
レオナート(メシーナ知事) 鳴門(なると)先生        高橋克実
アーシュラ(侍女)  明日香               峯村リエ
ドグベリー(警吏)     毒淵(巡査)            山崎一

原作では他にドン・ジョンの従者、修道僧、村役人、レオナートの兄なども登場しますが、それがどん平、巡査、明日香に割り振られている感じでした。

 

原作の方は、ベネディクト達もベアトリス達も名家の設定ですが、今作ではベネディクト達が人気の旅回りの一座で、ドイツ語学者鳴門(高橋さん)が一座を贔屓にしてもてなす家という設定でした。

 

大泉洋さん演じる木偶太郎が、人気役者への設定変更や大泉さんオーラによって(身分のよい男が才気を効かせて軽妙に振る舞うというより)ちゃらんぽらんな緩さが増していて、それがまた魅力的。宮沢りえさんのびわこの方は、原作ベアトリスよりおそらく設定的にも年齢は上で余裕のある上から目線的な印象で(いや面白いしくだけてもいるんですが)、そのため悪口を言っていてもなんだか上品に見えます。

 

原作のヒーローとクローディオは、問題解決はしても“いいのかこれで?”と思えなくもないカップルですが、定九郎は好青年で気はいいけれど状況判断力ニブめ、ひろこは原作より一寸強めになっており、この2人も面白さが増していて原作のもやもやを緩和してくれました。(展開としても“いいのかこれで?”とも思う箇所がメタ的にうまく扱われていて、それももやもや緩和になりました。下でこの点をもう少し書きます。)旅の一座の設定はこの2人にもいい形で効いているように思いました。2人が互いを好ましく思っていてもそれを言い出さないのが単に大人しくて人見知りというより、ひろこの方は推しが現実の恋の相手になると思っていない、定九郎の方は(大人になったひろこに驚いたのはもちろん)旅役者の自分にはお嬢様は高嶺の花と思っているように見えました。

 

以下のキャストについては、ややネタバレ・演出バレになりますが……

 

高橋さんの鳴門先生は人のよさと弱気さ増し増しです。娘・ひろこに対する婚約破棄には、怒るよりはおろおろするし、その後も鷹揚に許すというより馬鹿馬鹿しい企てに一枚噛んでしまった感じ。明日香の峯村さんと毒淵巡査の山崎さんの2人は出てくるだけで面白い、何かが起きそうな雰囲気があります。元々原作ドグベリーはそういう役ですが、今作はドグベリーのドタバタ場面を明日香も担って原作の侍女より面白くなっていました。定九郎がひろこを疑う画策をするドン・ジョン従者役も少し混ざり、更に毒淵巡査には解決策を提案する修道僧役も混ざっているので、上で書いたように矛盾するようなところがあるんですが、それが状況を余計にかき回すシュールな面白さにつながります。この作りはどん平を悪役にしない意図もあるんでしょうか。松島さんのどん平は1人黒い服。おそらくやはり従者役が混じって最後は改心するので、結局何がしたかったのかとも思うスネたお騒がせ青年風になっています。

 

原作・アラゴン領主の荒事座座長は台詞で出てくるだけ。そのため原作で領主が仮面をつけクローディオに成り代わってヒーローに代理で恋を告げる箇所は、衝立越しに木偶太郎が代わりに愛を語る場面になります。それを隅で定九郎も聞いています。この形になると『シラノ・ド・ベルジュラック』に似てくるなと思いました(木偶太郎はひろ子を愛している訳ではありませんけれども)。

 

個人的に面白い翻案・演出と思ったのは、原作でヒーローが亡くなったことにしてクローディオが謝罪と共に彼女の代わりの娘と結婚する話の箇所です。大団円的に解決するとはいえ、やはり現在だと(当時もそうだったのかもしれませんが)ビミョーな気持ちになる箇所だと思うんですよね。そこを今作では登場人物達も、本当に定九郎を騙すというより“いやいや、本当はひろこ死んでないから。そういう悪ふざけぐらいしないと丸く収まらないから。”というノリを見せ、定九郎にもそこを踏まえてフリをしてほしいのに彼はその空気が読めない感じにしていました。ひろこも怒っているからそれに乗っているふう。定九郎には更に、ヴェールで顔を隠した4人の中から間違えずにひろこに求婚する試練(?)が課されます。きっと『恋の骨折り損』パロディですね。『恋の骨折り損』と違って、今作はこれもどう見ても間違えようがない誂えで、定九郎は“一体なぜこんなことを”とそれに困惑気味でした。最初から最後まで楽しく笑える作品です。

 

今作は河合祥一郎翻訳が底本とのことです。

その下は『から騒ぎ』漫画翻案でこちらも秀逸です。三谷版とはまた全く違う少女漫画ラブコメ王道的ながら現代的で、こちらもヒーローとクローディオはいい形の改変。ドン・ジョン=田中くんは、更に拗らせお騒がせ系ですかね。