『薔薇王』にシェイクスピアをさがして

菅野文先生の『薔薇王の葬列』についてシェイクスピア原案との関係を中心にひたすら語ります

アンドリュー・スコット ナレーション “The Queen’s Guard” 感想

アンドリュー・スコットのナレーションによる Audio erotica(R18) です。ご、ごめんなさい、とつい謝ってしまう。

→続きを聴いたので更新します。全3話で完結でした。こちらのクリックで更新分に飛べます。

 

twitterで以下の紹介動画で宣伝がありまして

・なんだか装置が薔薇王っぽい(←王室ものだからですが。でも王冠も一寸薔薇王っぽい)

・“Look at you. Look at how beautifully your body bears the marks of everything you’ve been through. I could worship every one of them.”というバッキンガムみたいな台詞(リチャードがヘイスティングスを討った後で、爛れた手に口づけした場面の台詞っぽいなあと)

・2つめの動画には恋人間での剣闘らしき場面

・ファンタジーありの歴史フィクション 

が、スコットの語りによるAudio eroticaになるのが気になりすぎまして。

 

 

R18の専用アプリをダウンロードする必要もあり、英語の音声のみなのでハードルが高いとかつぶやいておきながら、結局サブスクして聴いちゃいました。(私はアプリをダウンロードしたんですが、下のページで登録したら、もしかしたらアプリダウンロードせずweb上で聴けるのかもしれません。1ヶ月500円、トライアルで7日間は無料解約可能。)

 

www.tryquinn.com

 

予想とは違って今のところ『薔薇王』というより、政治的背景を抜いたふたりの女王 メアリーとエリザベス』や『王国の子』的というか、王国テイストの入ったメロドラマという印象でした。むしろ『薔薇王』の方が硬派。リスニングの障壁はあったものの内容的には軽く楽しめる話になっていました。スコットのみの語りであるものの、『ワーニャ』のような複数役でなく、また“Sea Wall”のように誰かに話をするような形でもなく、主人公の独白的ナレーションと彼の発語だけを聞かせる会話芝居の作りになっています(「わかりました、陛下。では、〜〜いたします。」みたいな感じの)。

 

以下、更にストーリーネタバレ的なので画像を挟みます。

 

Image by Nile from Pixabay

 

第1話

架空の王国が舞台で、主人公は、女王に対する絶対の忠誠を誓った護衛官ロブ(Robb the Protector)。国内で女王への抵抗運動が深刻になってきたなか、抵抗運動のリーダーの1人が女王の妹マイラとわかります。ロブとマイラは密かに愛を交わす仲でしたが、しばらく前にマイラは宮廷から姿を消していました。女王はロブにマイラを捕らえるよう命じます。

 

政治的背景等は抜きでも私には言葉が一寸難しめだわとか、eroticaというより普通にオーディオ・ブック的と思って話の流れを追っていたら、約40分の話の最後10分あたりで急にeroticaでした。その点の展開急すぎ……。

 

ロブがマイラを見つけ、宮廷に戻り穏便に処罰を受けるよう説得すると彼女は剣で挑んできます。護衛官であり過去にマイラの剣も指南したはずなのに、剣闘場面でのロブの荒い呼吸……なにかこう思わせぶりな雰囲気だと思ったら、追い詰められたマイラがロブにセクシュアルに迫る流れ。えー。2つめの動画の“I thought I taught you to fight fair”はここで出てきます。剣で不利になったマイラが性的な籠絡に切り換えたのか、マイラとしては剣での闘い自体セクシュアルな挑発だったのか。ここからスコットのeroticaですよ。とはいえ、映画『ふたりの女王』はR指定なし、『異人たち』がR15+と考えると、オーディオなこともあり、第1話についてはR18でそこまで構えなくていいかもしれません。確かに物語に対してラブシーンが従である映画と、物語に従を装いつつそれこそが主で、演技的にもそう作っている今作の違いは明瞭なんですが。

 

結局、条件付きでロブはマイラを逃すので籠絡成功かもしれない一方、ロブを自分の味方にすることはできなかったのでマイラにも不全感があるかもしれません。

 

www.bitters.co.jp

 

最後まで聞いてみたら、個人的には、ストーリーが一寸期待外れだったのと、ええと、『ワーニャ』の方がむしろ官能的?とか思っちゃったりして、ビミョーなところはありました。ストーリーが一寸期待外れだった話は第3話の見出しの最後で、『ワーニャ』の方がという後者の理由については最後の感想のところで書きました(単に好みの問題の気もしますが)。でも、ドラマとして構成されているし、ダイレクトなeroticaシーンは各話最後に来ているので何なら抜かしてもドラマ自体は楽しめる形になっていると思いました(もちろん年齢制限は守って下さいね)。現在3話全部アップされていますので、トライアル期間内で聴けてしまうかも。

 

2,3話は、種明かし的展開もあってうまく端折って書けず長めになってしまいました。がっつりネタバレしています。そちらを見ずに感想に飛ぶ方は下の画像をクリックして下さい。

 

Photo by Birmingham Museums Trust on Unsplash

第2話

宮廷に戻り女王に呼び出されたロブは、まだマイラを見つけられず少々時間をいただきたいと嘘を吐きます。ロブはマイラに、見逃す代わりに市街を離れて辺境に行くように言ったのでした。女王に虚偽の報告をする一方で、ロブはマイラ探索の間に市内で見た、人民が貧困に喘ぎ病気になっても治療ができない状況を訴えます。しかし、女王は既にその事態を知っており、それでも意に介さず放置していたことがわかります。更に訴えを強めるロブを、女王はマイラの捕縛を命じて下がらせました。

 

マイラの方はロブの出した条件にもかかわらず、市街から出ていないどころか、宮廷内に忍び込んでロブの部屋に手紙を置いていったり、ロブがいない間に彼のベッドにいた痕跡を残していったり。(ベッドが乱れていて、彼女のハニーサックルの香りが残っています。相手の不在時にベッドに行くのが『薔薇』リチャードっぽいとか思っちゃいますが、マイラの方は自分がそうしたいというより多分ロブの挑発目的です。マイラはジェーンと『薔薇騎士』マーガレットを足して2で割った感じのキャラかなという印象です。無理筋で言えば、ロブもサフォークとヘイスティングスを足して2で割った感じかも。こちらは足すなと言われそうですが。)再びロブが隠れ家に出向くと、マイラはまだそこにいて、(ベッドの件も含めて)彼が来ると思っていたと言います。マイラは、ロブと女王のやりとりもどこかに隠れて聞いていた様子。マイラはロブに抵抗運動を見せると言い、2人で外に行けば見つかる危険があるとロブが止めようとしても彼女はさっさと歩き出し、ロブは結局ついていきます。向かった先では、宮廷で働く給仕人達が困窮者に食事を提供する平穏な光景が。ロブは虚を突かれ、抵抗運動の危険性が誇張されて過剰に取締まられている可能性を感じ始めます。それでも彼は、宮廷の食材を持ち出すのは盗みに当たるとまで強弁し、他のクイーンズ・ガードが差し向けられる前に自分と宮廷に戻るか市街から逃げるかしてくれと言って再度引き上げます。

 

ですが、ロブは密かに監視されていたようで、女王には、前の晩(第1話)にロブがマイラと関係を持ったことも含め、この間の経緯が全て知られていました。いよいよロブは女王から、マイラを殺すように命じられます。マイラに理があったとしても、彼女を愛していても、護衛官である自分は女王に対する裏切りを処刑しなければならないのかとロブが煩悶していると、誰かが部屋のドアをノックしました。ドアを開けても誰もいませんが、マイラの香りがしてその香りを追って行くと、宮廷の玉座の間でマイラがひとり、まさに玉座に座っています。

 

逃げろと言ったのに。「これで裏切りは完成という訳だ」と皮肉げにロブはマイラに言い、女王に対する裏切りだけでなく自分(ロブ)に対する裏切りだ、マイラを殺す立場にロブを追い込んだ、義務と愛に引き裂かれる思いを考えたか、と彼女を責めます。さすがに(?)マイラが謝りますが、“Sorry isn’t good enough.”“Beg.”と口調は穏やかながらロブの気持ちは収まらない様子。マイラは謝罪のつもりか、今回もまたロブにセクシュアルにアプローチしてきます。皆がマイラを捜索しているのに玉座の間ではだめだ、話す必要があると言いながら、ここでもロブは流されてしまい玉座に座っているマイラとそのまま……。ええー(←2回目)。“Beg”は、『フリーバッグ』のhot priestの台詞“Kneel”を意識したものでしょうか。

 

第3話

その後、ともあれ一旦ロブの部屋に行こうとした2人を、武装したクイーンズ・ガードが取り囲みます。そのうちの1人アーサーは、ロブに剣を向けて裏切者と呼びました。自分を追跡して監視していたのがアーサーだとロブは気づき、抵抗運動やマイラのことを歪めて女王に報告したのもアーサーで、この間自分に妙に情報が届かなかったのもそのためかと考えます。(1,2話のあらすじでは端折っていましたが、アーサーは女王の呼び出しを伝えたり、鍛錬の相手になったりで登場していました。情報が届かず経路がおかしいと感じている話もありました。)ロブに代わって護衛官の地位を得ようと邪なことをしたアーサーこそ裏切者だとロブは言い返します。ロブは死闘までは避けようとするものの、アーサーは剣を収めず、ロブは彼を斃します。ロブは自分の所有する隠れ家にマイラを向かわせ、その間にアーサーの陰謀を女王に伝えて説得を試みます。

 

ですが、女王にアーサーの件を報告するうちに、抵抗運動の誇張も含め全てはアーサーの陰謀でなく女王の采配だったことをロブは悟ります。彼は「マイラの居場所はわかっていますので、すべきことを行います」と女王のもとを下がり、隠れ家に向かいました。

 

隠れ家でロブはマイラに、マイラの指摘が正しかった、女王はかつてと変わってしまったと言います。(これも第1話で出てきたんですが、その時はロブは結構強く否定していて、展開が読めず書いていませんでした。)戴冠前の女王のひととなりを知るロブとマイラが女王には疎ましく、女王がロブにマイラの殺害を命じたのも、ロブには遂行できず命令違反をするとわかっていたからで、それを理由にロブを処刑するつもりだったのだろうとも言います。ロブがマイラを愛していること女王は熟知して利用しようとしたのに、ロブ自身は、黙って宮廷からいなくなったマイラを恨み、そのために女王のしていることにも抵抗運動についても目が曇ってしまったと認めます。「愛している、マイラ。もう離れないでくれ」。マイラが黙っていなくなったのも、その時のロブに一緒に来てもらうのは無理だと思ったためだとも今のロブにはわかっています。女王の統治をもう終わらせるしかないことも。

 

マイラは抵抗運動の先頭に立ち、瞬く間に宮廷を占拠し女王を捕らえます(←物語の語り自体も瞬く間です(笑))。ロブは女王に、女王が敵対者に情け容赦なかったのに対し、抵抗者達は犠牲者を最小限にしようとしていること、女王がマイラとロブを殺そうとしたのに対し、マイラは女王を投獄し裁判にかけるつもりであることを告げます。「あなたには釣り合わないほどの優しさだ、陛下。いやロザライン。かつてのあなたを決して忘れない、いつかあなたが自分自身を思い出せることを願っている。」

 

最後は抵抗運動の成功を祝うパーティーを抜け出したロブとマイラのeroticaです(その後に民主主義化した国の様子のナレーションが入りますが)。“Look at you. Look at how beautifully your body bears the marks of everything you’ve been through. I could worship every one of them.”はなるほど、ここで出てくるんですね。

 

上でも少し触れたように、ストーリー的にもう少し捻ってくるのかなと思っていました。第1話でマイラが女王が変わってしまったとロブに言ってもロブが否定していたり、第2話でマイラが易々と宮廷に忍び込んでいたり、女王もマイラも双方の情報を知っていたりするので、実はマイラと女王が結託・協力して何かしようとしているのかとか、他に仕掛けがある話かと思っていました。普通に、以前と変わった女王をロブが認めたくなかっただけという話でしたか……。一旦アーサーの陰謀に思わせて女王の画策だったという展開については捻りがあるとも言えますが、悪政をしてそうな女王がやはり悪くて、恋人マイラは善という予定調和的構図でした。女王がなぜ変節したのか描かれていなかったのも肩透かしではありました。マイラに対する嫉妬(ロブへの三角関係的思いでも、恋愛無関係の能力のコンプレックスでも)といったありふれた理由でも、女王の感情がみえた方が面白いんじゃないかと思いました。ロブも最後にマイラに加勢して女王を投獄してますが、確かに行政官でなく武官で、実態も知らなかったとはいえ、圧政した女王の側近だったのに無責任じゃん……。

 

感想

暴政や抵抗運動の設定が緩めでも、登場人物の動機が今ひとつでも、シェイクスピアだってそんなところもあると思いますし、eroticaだしいいと思うんです。でも恋愛や情動はもっと描かれていたらよかったな、と。展開を面白くするために謎を残した面もありそうですが、それほどミステリー的な展開でもなかったし、それが恋愛や情動の盛り上がりを削いだ印象にはなりました。女王の存在感も薄めで、でも第3話の最終部で主人公ロブが女王に言った台詞に情動を感じ、しかもなんだか意味深な気もするし、女王についての話が(恋愛が絡んでも絡まなくても)もっと入っていればなと思いました。

 

第2話になるとeroticaシーンになったら、演技が続いているのに“残り5分くらいだからストーリーはここで終わりかな”と思う私がいたんですね(愕然)。erotica部分に一寸飽きちゃっていたという。聴く前は、“ハムレットの時でさえセクシーなスコットがAudio erotica……!“とか思いましたが、そして確かに描写は詳細(??)でしたが、むしろ第1話と第2話聴取の間で観た『ワーニャ』の方がどきどきしたんです。聴覚と視覚の違いというより、『ワーニャ』のマイケルとヘレナの方が2人の感情の切迫感なり熱量があるし、『異人たち』の方が欲望と愛の切実さがあると思うんですよ。逆に言えば、今作はそういう感情のうねりがなく、あるいは感情は動いていても例えば第2話でのロブの煩悶と苛立ちのような感情が、敢えて意表を突くように性的シーンに繋げられている気がしました。それで重くならずに楽しめるようにしているのかもしれませんが、eroticaが却ってエロティックではない感じというか。

 

そのせいなのかどうなのか、ロブは多分イケメンかっこいい系な演じ方に思えるのに、『ワーニャ』のマイケルの方がセクシーだと思いました。マイケル(原作アーストロフ)は、場合によってはイケメンかっこいい系になりうる人物だと思うので、そういう造形にしないでくれて本当によかった……。おっとすみません、また『ワーニャ』のマイケルがよかったという話をして、話がずれてしまいました。

 

baraoushakes.hatenablog.com

 

あ、でも、第1話目を聴いた時は、意表を突く感じのeroticaシーンでもどきどきしました。甘いケーキと同様で量が多いと飽きちゃうということかも。Audio eroticaなので、ケーキバイキングに来ておいて「ケーキはもういいかなー」と言うようなものだと思うのですが。