『薔薇王』にシェイクスピアをさがして

菅野文先生の『薔薇王の葬列』についてシェイクスピア原案との関係を中心にひたすら語ります

王妃と薔薇の騎士2巻 Ep:7 サフォークの手紙について

(※ネタバレになっていますので、ご了解の上お進みください。)
 
このEp.7は『ヘンリー6世』(HⅥ)自体よりも、Ep.1記事でもリンクした“Devious Facts About Margaret of Anjou“に書かれていたエピソードが主になっているような気がしました。ヘンリーが女性に関心を示さず、マーガレットに触れないままだったので後継ができず、それに関してマーガレットに非はなかったのに彼女のせいにされたとあります。寝室の指南役がいたともされています。
 

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ベッドをめぐるトラブルについて

マーガレットの部屋を後にしたヘンリーはグロスター公の館を訪れ罪深いことをしたと語りました。グロスター公に問われて行為自体はしていないと答えるヘンリーに、グロスターは「それならばまだ貴方は汚れてはいない」、欲望に囚われそうになったら「狂惑の闇に誘い込む悪魔の正体」「背徳に浸る」母親を思い出すとよいと言います。

 

ヘンリーが女性を遠ざけた理由や背景について、『騎士』ではグロスターが原因か!という描き方ですね。これはEp.8にも続いています。

 

また、ベッドを共にせず子どもができないのがマーガレットのせいにされてもいます。王権を取り戻しても〈それでも“王妃”は、子どもを産まなければ仕事をしたと認められない〉のだとマーガレットは認識させられます。

 

Image by Ralph Klein from Pixabay

 

サマセットとサフォークについて

前回から登場のサマセット公ですが、たまたま菅野先生がサフォークの服と間違えたツイートをされていまして、そう言えば2人の服って、サフォークの方が質実で、サマセットの方がおしゃれっぽいなと思ったんですよ。

 

 

サマセットは、ヘンリーくらいの年齢の時はずっとベッドにいたかったと言ったり、ウォリックがまだ女性経験がないことを揶揄ったりしています。色事好きそう・得意そうで、HⅥのサフォークのキャラに近いのは『騎士』サマセットの気がします。『騎士』サフォークがHⅥサマセットに近いかというとそうは言えない感じですが、もしかしたらこの2人のイメージを入れ替えているかもしれないと思いました。

 

サマセットの髪型は、ポスターだけに終わった(実際の舞台では違う扮装だった)佐々木蔵之介さんの『守銭奴』アルパゴンに見えてしょうがなかったんですが、菅野先生は肖像画を参考にしていると時々おっしゃっているので、これは肖像画からでしょうか。前髪がちょっと帽子の下から出ている!

 

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Attributed to Philippe de Mazerolles, Public domain, via Wikimedia Commons

 

……と言いつつ、肖像画の方は横のくるくるした髪型の方が気になります。

サフォークの手紙について

上リンクの記事を読んだ時には、寝室の指南役がサフォークとして描かれるかもと思いました。ある意味そうだったんですが、記事では「信頼できる助言役はヘンリーにやり方を示すために寝室で彼らに加わった(join)」と書いてあり、まるで3……ううん、なんでもありません。HⅥでのマーガレットとサフォークの関係からしても、その場合はてっきり現場指導かと想像しましたが、『騎士』の忠節なサフォークは手紙でマーガレットに伝えています。『薔薇戦争新史』では、サフォークが「宮廷の作法に則って王妃に接し、彼女を讃えるロマンチックな詩を献呈していた」とあって、この辺のエピソードも入ったかなという気もします。宮廷の作法とはされているものの詩の献呈の方はおしゃれというか気障っぽく思えますが、『騎士』サフォークは手紙も誠実な感じがするんですよね。

 

この先のマーガレットとサフォーク(とヘンリー)についてはどうなるかわかりませんが、Ep.6感想にも書いたようにHⅥの不倫関係に近づくかもしれませんし、ヘンリーの母キャサリン王妃の描き方の転換からすると、2人の愛は精神的なまま、HⅥの描写自体を周囲の見方とする可能性もあるかもしれません。

 

サフォークがマーガレットに手紙で伝えた性愛行為のあり方は、グロスターがヘンリーに吹き込んだものとおそらく対照的にもされていて、行為に歓びを見出すマーガレットと苦悩するヘンリーが連続するコマで描かれています。サフォークは、性愛行為を「相手を慈しみ、自分を慈しむ、すべてを曝け出し、他の誰にも明かせない秘密を分かち合う」ものだとし、そう伝えられたマーガレットは「心と身体(からだ)の赴くまま」の自由と歓びを見出しています。また冗談とはいえ、マーガレットは想像する相手が神でもいいかとまで言っています。グロスターはそれが「悍ましい獣欲」だと言い、ヘンリーは「愛したら罪を犯さずにいられないなんて」「主はなぜ……このような罰を僕達にお与えになるのだろう」と煩悶することになります。

 

※ 作品の雰囲気は違うものの、『鋼鐵の薔薇』はやはり薔薇戦争が扱われていて『薔薇騎士』と登場人物がかなり重なっています。サマセット公に仕える騎士を中心とした群像劇の感じです。現在の『薔薇騎士』より少し後の時間軸。ヘンリーは肖像画によく似ていてキャラ的にも『薔薇騎士』に近く、ヨーク公は要注意なほど違っています。確か菅野先生も紹介ツイートされていました。話としては次のEp.8の方が関連する感じですが、Ep.8記事では別漫画を紹介したいこともありこちらに載せました。HⅥにも出てくるジャック・ケイドの乱も詳しく描かれていて面白かったです。