BS松竹東急で放映された、蜷川幸雄演出、2015年彩の国さいたま芸術劇場のシェイクスピア・シリーズ第31弾作品です。
うーん、演者の方達が魅力的でその点で面白かったぐらいしか感想がないなー、と思った割には以下だらだら書いています。この演目はそういう見方でよい気もします。なにしろ戯曲自体は、松岡和子先生が「突っ込みどころ満載の、オソマツと言っていいほどの筋立て」「唐突な展開」「かなり杜撰な人物造形」と訳者あとがきで書かれているくらいです。その後に十二分なエクスキューズがあるというか、下げておいて良さを言うための前置きではあるのですが。
ヴェローナの友人同士のプローティアスとヴァレンタイン、プローティアスの恋人ジュリア、彼ら2人が遊学先ミラノで想いを寄せる大公の娘シルヴィアの4人がメインの登場人物です。プローティアスは、地元ヴェローナでジュリアと愛を誓っておきながら、また、友人ヴァレンタインとシルヴィアが既に相思相愛なのにシルヴィアに惹かれて、ジュリアもヴァレンタインも裏切ってシルヴィアに求愛します。一方、プローティアスを慕うジュリアも男装してミラノにやってきます。プローティアスは、ジュリアと気づかないまま彼女を小姓に雇い、シルヴィアへの求愛の遣いにさせるという『十二夜』的ながら相当酷い仕打ちをします。
最後はハッピーエンドであるものの、特にこの4人の関係・感情の解決は唐突で無理矢理な感じはします。
こちらの蜷川演出版はオールメール上演である以外は、演出で捻ったところはありませんでした。演者達の魅せ方で勝負ということかもしれません。それで面白く観られてしまうのが、すごいと言えばすごいです。
ですが、その先を期待してしまったところもあったんですよね。『終わりよければすべてよし』などは、戯曲はトンデモかと思っていたのに観たら発見的で納得するところも色々あったので。
↑ジュリア役の溝端純平さん、こちらでは河内大和さんと兄弟役だったんですよね……。
もちろん、シェイクスピア全作品上演という企画の意義はあったと思います。その意味でも、上演回数が少ないこの作品を捻らずにそのままの面白さを示したのも妥当かもしれません。また、捻った演出なら面白いかというとこれも悩ましくはあります。
Marquee.TVにある、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーのサイモン・ゴドウィン演出版は、少しですが捻ってあり、時代を現代にして最後場面も唐突感を減らす工夫をしていました。現代化しているのに驚くほど違和感がなく、終盤でのヒロイン2人にも感情の機微を入れていると思いました(演出なのか演者による演じ方なのかはわかりません)。元戯曲で想像するよりはかなり面白いとは思ったものの、捻りのない彩の国版より面白かったかと言われるとそこは微妙です。
この彩の国版では、最後の無理矢理展開を、ほぼジュリア役の溝端淳平さんの健気さと可愛さで解決していた気がします。これもすごいと言えばすごいですが(しつこくてすみません)。
溝端さんのジュリアと月川悠貴さんのシルヴィアは特によくて、ジュリアとシルヴィアという違うタイプの女性の魅力を溝端さんと月川さんが引き出していたと思います。昔の少女漫画にありそうな、初心で可愛く一寸コミカルで生き生きした主人公タイプがジュリア、主人公のライバルの、知的な高嶺の花で実は情熱的なのがシルヴィア。溝端さんと月川さんが、佇まいや口調でそんな雰囲気をうまく出している気がしました。
オールメールの面白さはあると思いつつ、中盤以降は溝端さん月川さんの役づくりの魅力は感じても、男性が演じていることは実はどうでもよくなってしまいました。他演目でクロス・ジェンダー・キャスティングを見慣れてきたせいかもしれませんし、これも2人のうまさかもしれません。舞台『薔薇王の葬列』で、男女ダブル・キャストが話題にもなったのに、観たら男女の違いはあまり意識にのぼらず、2人のリチャードらしさと見せ方の違いに目が行ったのと同様かもしれません。
二紳士であるプローティアスとヴァレンタインは損な役回りだと思うんですよ。プローティアスはクズ男だし、ヴァレンタインはまともに見えるのに終盤に“ええ?!”ってこと言っちゃうし。ヘタをしたら相当嫌な感じになってもおかしくない気がしますが、2人が嫌な感じを残さないのも面白く観られた理由の1つかと思います。三浦涼介さんは、プローティアスを、ペラい男ながらその時々に一生懸命であまり考えてなさそうなキャラにしていて、その辺で嫌味がなくなったかなと思います。高橋光臣さんのヴァレンタインは、多分女性からも男性からも好かれるいい男なのに少し鈍いところ(これはおそらく原作通り)がよく出ていたように思いました。
横田栄司さん(プローティアスの父とシルヴィアの父の2役)と河内大和さん(シルヴィアと結婚するつもりのシューリオ)が、かなり典型的というかお決まり的なコミカルな役に作っていました。肩の力が抜けた感じの軽いモードが、演目にも役柄にも合いますね。横田さんの2役はがらっと印象を変えて、楽しんでいる風なのもよかったです。
この演目は犬のことも書くべきなんでしょうが、犬については上記のロイヤル・シェイクスピア・カンパニーのもので“おおー”と思い、2回目だと感慨が減ってしまったのでした。