『薔薇王』にシェイクスピアをさがして

菅野文先生の『薔薇王の葬列』についてシェイクスピア原案との関係を中心にひたすら語ります

GGG Project 2023『ガチョーク讃歌』感想

(『夏の夜の夢』パ・ド・ドゥが入っています、という言い訳で。)

2023年上演、配信。21日まで購入でき、22日まで視聴可能です。

 

www.ggg-project.com

 

配信の宣伝で小野絢子さんと福岡雄大さんの『ジゼル』の動画の一部が上がっていたのを見て“ああー、これは観たい!”と購入。twitter(と敢えて書きます)のTLでは、菅井円加さん待山貴俊さんの『シェヘラザード』がとてもよかったと評判で、評判通りそちらも凄かったです! そんな経緯で購入したので“『ガチョーク讃歌』って何?”状態からの視聴でした。

 

プログラムは、第1部が『ガチョーク讃歌』、第2部と第3部が「バレエコンサート」(=ガラ)。

 

『ガチョーク讃歌』

twitter公式アカウントの写真内に説明が書いてあったのに後から気づいたのですが、ガチョークってルイス・モロー・ゴットシャルクだったんですね。ゴットシャルクという読みの方で聞き覚えがありました。Great Galloping Gottshalkの邦訳が『ガチョーク讃歌』。ゴットシャルクの音楽に、『フットルース』等で有名なリン・テイラー・コーベットが振付し、アメリカン・バレエ・シアターで上演されたものだそうです。かなりアメリカを意識させる作品になっているのですね。『ガチョーク讃歌』の解説を兼ねた宣伝動画が以下です。

 


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全6曲全部が刺さる訳ではなかったんですが、1曲(「プエルトリコ」)、2曲(「詩人」)はかなり好みでした。尤も、2曲目は米沢唯さんと速水渉悟さんだったので、ダンサーのよさでうっとりしたところがあったかも、と今一つ自分の感覚が信用できない感じはあります。でも「プエルトリコ」は浮き立つような高揚があり、「詩人」は、恋人同志の甘い感覚がなんともよいのです。

 

第2 部、第3部は印象的だったものだけ。


『ジゼル』小野絢子・福岡雄大

第2部では、やはりこれ目当てに購入した『ジゼル』のパ・ド・ドゥに一番惹かれました。昨年、草刈民代芸術監督『キエフ・バレエ支援チャリティ』配信で観た、加治屋百合子さんと平野亮一さんとは(当たり前かもしれませんが)やや雰囲気が違う気がして、そこも含めて楽しめました。加治屋・平野を観たのは昨年で記憶は怪しいのに例によって妄想語りしてしまうんですが、双方の恋愛的想いを強く感じたのが小野・福岡、贖罪と救済を感じたのが加治屋・平野です(もし仮に加治屋さんが公演趣旨に合わせてこう踊ったなら更にすごいですよね)。加治屋さんは慈愛と許しにまで昇華された霊的なジゼルの印象で、小野さんはもっと恋愛的な想いが残っているジゼルの感じがしました。平野さんは後悔と愛惜が、比較すると福岡さんは小野さんと対応するようにジゼルに対する愛が強く感じられ、小野・福岡だと許されない逢瀬みたいな。

 

でも見せ場だからといってカメラはジゼルの脚だけクローズアップにしないでー、とは思いました。

 

『フェアリー・ドール』松浦景子・佐野和輝・山田悠貴

けっけちゃんこと松浦景子さん、華も遊び心もありますねー。こういう演目にはぴったりなのでは? むしろこの演目を普通のダンサーで観たらここまで楽しくないかもしれないと思いました。演劇的にコミカルに仕立ててくれたからの面白さかも、と。白塗りでコミカルな作りですが、結構男性に派手なテクニックもありますね。

 

ドン・キホーテ』大谷遥陽・待山貴俊

ガラならではの感じが楽しかったです。キトリの友人達が通常イメージのキトリのような赤がメインの衣装で最初に踊り、キトリの大谷さんは赤が入りつつ黒が基調に見える衣装で登場(全幕でもこういう衣装はあるのかもしれませんが、ガラだと余計にキトリがいっぱい?みたいに見えるので)。待山さんも全身黒の衣装。大谷さんご自身が「待山さんとのちょっと濃口ドンキも皆様に楽しんで頂けますように」とtweetされていて、本当にそんな感じでした。大谷さんは安定の軸とテクニックの上に余裕でタメと見せ場を作って楽しませてくれます。待山さんのバジルは、セクシーというかダンディーというかアク強めというか。山岸涼子先生の『アラベスク』で言えば、ミロノフ先生でなくエーディクの感じと言ってわかってもらえる人いるでしょうか。

 

背景幕の下が暗く(黒く)なっていて、全身黒の待山さんの衣装との関係で回転が見にくくなったのは残念(これもカメラの位置を変えれば違ったかもという気も)。一方、黒の衣装で待山さんの手の所作が目立つのはよかったです。熊本公演ではバジルが福岡雄大さんで、大谷さんが少しだけインスタにアップしてくれていたのですが、やはり雰囲気が違うんですよね。福岡さんだと陽のバジルの印象、衣装も白でした。

 

『夏の夜の夢』福田真帆・三船元維

音楽が流れた時にはてっきりアシュトン版だと思ったら、あれ?衣装と振付が違う……。そもそも男性のキャラ誰?とか思ってしまいました。多分オーベロンだとは思うのですが、衣装ではオーベロンだとわからない感じ。少なくとも衣装はアシュトン版やバランシン版の方がいいような気がしました。リンクしたブログ記事では振付等を調べて書いて下さっていて、クリストファー・ウィールドンの振付だとわかりました。初めて観ただけでなく、ウィールドンが『夏の夜の夢』を振り付けていたのも初めて知りました。(『夏の夜の夢』に託けて書いておきながら、こんな感想ですみません……。)

 

 tarot-ballet.jugem.jp

 

 

こちらは別のバレエ団によるウィールドンの『夏の夜の夢』trailer。


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『シェヘラザード』菅井円加・待山貴俊

これはよかったです! 菅井さんのゾベイダはセクシーでありつつ、誘惑する妖婦とか、奴隷との戯れで官能を感じる踊りの感じではないんですよね。いわゆる女っぽいセクシーさとどこか違って、森菜穂美さんがtweetしていたように「王者の風格」。強い。対する街山さんの奴隷は、ゾベイダに身も心も捧げているというか、ひれ伏しているというか。奴隷の方も彼女の色香に誘惑されている訳ではなくて、それ以前にどうしようもなく魅せられている感じがします。奴隷がゾベイダの足にキスしようとする振りや、脚にまとわりつく感じの振りがありますが、そこがセクシュアルな表現というより(いや、セクシュアルでもあるんですが)、平伏する表現に見えます。奴隷という身分を考えると、元々振付的に両方を狙ったのかもしれませんが、街山さんの奴隷は身分というより感情面で平伏しているように見えるのです。ゾベイダはそんな奴隷の感情も全て承知で優位に立って翻弄し、街山さんの奴隷はゾベイダのなすがまま……そこが魅力的です。よいものを観ましたー。