『薔薇王』にシェイクスピアをさがして

菅野文先生の『薔薇王の葬列』についてシェイクスピア原案との関係を中心にひたすら語ります

ウースター・グループ『ハムレット』他感想

ウースター・グループ(The Wooster Group)『ハムレット』感想

エリザベス・ルコント(Elizabeth LeCompte)演出、スコット・シェパード(Scott Shepherd)主演。配信で観ました。

 

確かに『ハムレット』ではあるのですが、過去のリチャード・バートンの『ハムレット』の映像と同時進行で舞台の俳優たちがそれをコピーするような仕掛けの上演です。上のリンクから読めるプログラムによれば、作られた映像を逆に再構成する試みのようです。バートンの映像は、劇場での上演を2日間だけ映画館上映したものだそうで今の配信の先駆けっぽい感じもしますね。この映像は映画のように残そうとしたものでないところも昨今の配信っぽい気がします(そのため一部は修復不能だったりします)。少しだけケネス・ブラナーの映画映像も出てきます。

 

真面目に演じているもののパロディ的で、「ここは早送りで」と早送り映像に合わせて早く動いたり、映像で装置が映る角度に合わせて俳優が黒子のように装置をその都度人手で動かしたり、映像が乱れるところもちゃんとその通りに動いたりします。前半は『ハムレット』世界内に全く入っていけず、いっそ清々しいほどです。

 

ハムレット』世界に入れないのはリスニング力がないせいかとも最初は考えたものの、日本語でも過去の有名な『ハムレット』を使ってこういう上演がされたら、やはり類似の感覚を抱くだろうと思いました。バートンのハムレット演技がどういう性質のものかわからないのですが(検索したんですが探しきれず)、こういう見せ方だと、バートンのハムレットもなんだか大袈裟に見えたり、オフィーリアの演じ方に時代を感じたり(素直でしとやかな感じで、今はこういう演じ方が少ない気がします)、そちらに目が向きます。仮にバートンの『ハムレット』をそのまま観たら、多分そんな印象は抱かないか気にならないと思うんですが、バートンの演技がどういうものだったかを検索したくなるくらいは注意が向きました。

 

逆に後半になると、演技は前半と変わらない映像そっくりのもののはずなのですが、そういう作りとわかっても段々舞台の演者の方に注目したくなったり物語につい見入ったりで、そう仕向ける演出なのか作品の力なのか……。それでも、オフィーリアの狂乱のシーンなどは敢えて過去映像の音を入れて演者の声と二重に聞こえるようにして、やはり物語に入り込ませない対抗的な作りにしているように思えます。後半はシェイクスピアの吸引力と、過去の映像と、舞台の俳優と、パロディ的作りが拮抗しあう感じというか。

 

プログラムではイェジー・グロトフスキの次のような言葉が引かれていました。「私というものは、先人達との語りのプロセスの中に存在する。(中略)彼らは私の基盤であり、源泉(source)である。」「それによって、私は劇作に取り組みほとんど常に過去の作家と協働しているのだ。」もしかしたらパロディというより真剣な作りなのかもしれません。

 

こんなふうに気持ちが動くのを経験するのはまあ面白かったし、終幕はそれまでバタバタしていたのが一気に静かになるかなりよいラストと思えましたが、でもこのスタイルでの全幕は私にはキツかったというのが正直なところでした。

 

File:Ruta graveolens 3.jpg - Wikimedia Commons
“O you must wear your rue with a difference. ” in Hamlet
 

オーストラリア・バレエ『クンストカマー』感想

ハムレット』の感想が短くなったので、シェイクスピアとは関係ないオーストラリア・バレエの『クンストカマー』の感想をおまけで書きます。これは配信中にツイートしようかと思いながらしそこねてしまいましたので。Kunstkamerは、「不思議の部屋」「驚異の部屋」という博物館の前身的でもあり、もっと怪しい珍品蒐集展示的なものでもありだそうです。

 

australianballet.com.au

 

こちらは6月10日から48時間の配信でした。12日早朝というか夜中に配信されたチューリッヒ歌劇場バレエの『眠りの森の美女』も素敵でしたが、こちらもとてもよくて鳥肌モノでした。鑑賞体力がないので日を置かない鑑賞だとやや注意力が散漫になり、もう少し間を空けて鑑賞できたら更に感動できたんじゃないかという気もしました。

 

ソル・レオン、ポール・ライトフット、クリスタル・パイト、マルコ・ゲッケの4人の振付家の共同作品だったのも私にはちょうどよかった感じです。コンテンポラリーで、かなり変わった動きの振付も入りますが、それぞれの振付や作風が、組み合わせによって相互に引き立つ気がしました。

 

1幕最後のベートーヴェンの第九と2幕最後の多分パーセルの『アーサー王』の箇所が特に好みで感動的でした。第九なのに振付は幾何学的でシャープ、でもとてもエモーショナル。皆で輪になる所はもしかしてベジャール・リスペクトかなと思いましたが、肌合いはかなり違います。

 

2幕の最後もバロック的な音楽に現代的な振付なのが、演劇的で荘厳な印象になります。オーストラリア・バレエの演目なのに、元のネザーランド・ダンス・シアター(NDT)の動画なのはオーストラリア・バレエに申し訳ない気がしつつ、作品の雰囲気がわかるのがこちらだったので。オーストラリア・バレエでも最後に写真が出てきて、これもぐっと来るんですよね。

 

www.youtube.com