(薔薇王の葬列アニメ10話対応)
24話はウォリックに大きく焦点が当たった回でした。さすが6巻の表紙にもなっているだけあるというか。今話のウォリックとエドワード王が剣を交えている表紙も、25話にかけての2人の愛憎をよく表していて素敵です。
この2人の対決と、リチャードの戦場での活躍を主軸に、ヘンリーが自ら王として振る舞う場面とマーガレット達のイングランドへの上陸が挟まれます。バーネットの戦いの場面という点では『ヘンリー6世』(以下HⅥ)からと言うことができますが、台詞・内容としてはHⅥでは『薔薇』23話から25話に一気に飛んでいます。HⅥでは、ジョージが寝返って、ウォリックとエドワードが宣戦布告をした次の場では、もう瀕死のウォリックがエドワードに引きずられて来るという形になっているのです。24話については史料が素晴らしくアレンジされている回になっているようです。
リチャードの戦いについて
戦況が5分5分で膠着状態になる描写も、霧で敵味方の見分けがつかないところにリチャードが打って出て同士討ちを仕掛けるという、目茶苦茶盛り上がる展開もHⅥにはありません。この展開には本当に痺れました。同士討ちを仕掛けるエピソードについては、HⅥの親が子を子が親を気づかずに殺した話の変奏と、この下の、バーネットの戦いの状況が重ねられているのではないかと推測します。HⅥの親子の話というのは、2巻でも使われているかもしれないと下記記事で言及したもので、これは25話でしっかり描かれていると思います。
バーネットの戦いでは、霧のために敵味方がわからなくなって相互に攻撃しあうことになったり、途中から参戦したオックスフォード伯が敵と誤認されて更に状況を悪化させたりしたようです。ランカスター側のオックスフォード伯による混乱を、リチャードの戦略的誘導にしたということなのでしょう。
しかも、そこで混乱のため味方同士を攻撃した話を、HⅥの親子の話に、更にそれをリチャードとヘンリーの再会の話に重ね、かつ、霧の中の戦いをその後の太陽が出てくる話に繋げているというものすごい展開ということです。
wikiに載っている情報とそれほど変わりませんが、そこで参考文献とされていた『薔薇戦争新史』では以下のように書かれています。
グロスター公が(中略)敵の側面を突き崩し、自陣を前に進め、敵中央を叩こうとしていた。(中略)霧と混乱の中、戦いは全く支離滅裂となり、敵味方も分からぬ兵士たちは、傍にいる者を手当たり次第攻撃していた。(中略)友軍オックスフォード伯の部隊を敵と誤認したランカスター方が銃砲を浴びせかけると、オックスフォードの兵士たちは「裏切りだ!裏切りだ!」と叫びながら戦場を離脱していった。(p.314)
また、エドワードがウォリックを生け捕りにしろと言ったのは、史料準拠でもあったようです。
エドワードはウォリックを生け捕りにするよう命じていたが、彼の命は助からなかった。殺戮の最中ヨーク派の歩兵達の一団に見つかり、取り囲まれ、殴り倒されると、そのまま討ち果たされた。(同 p.314)
リチャードのこの戦術と絡む、霧が出ている話や「
リチャードが敵陣に1人で突入していくところや、逆にランカスターの兵士を煽って進軍させる箇所は、一寸『コリオレイナス』っぽい気もしているのですが、この類推は無理がありますかね……。1人で突入というエピソードがあるのが多分『コリオレイナス』ぐらいかと思うんですが、同士討ちの戦術とは関係なく突入する先も城門の中で、兵士が怯んで結果的にマーシャス=コリオレイナス1人になっただけなので、上述の史料+HⅥと考える方がいいでしょうか。(コリオレイナスが1人で突入する話までは書いていないのですが、多少のあらすじを下記記事に書いています。)
更に、この戦いで、『薔薇』のリチャードが名実ともにHⅥのリチャードに追いついた感じもします。HⅥではリチャードは最初からヨーク家にとって主要な戦力で、ヨーク公やエドワードを支える存在です。ですが『薔薇』1巻の頃は憧れながら戦には出られず、2巻の頃は戦に巻き込まれ凄惨な戦い方をしたものの表には出ず、リチャードにとっても戦術や勝敗も関係ない殺戮でした。それがここで、本当の武功を立てヨーク家を勝利に導く形になっています。史実とも合わせる形でそういう経過が描かれているのがとても丁寧だと思います。
バッキンガムがここでリチャードの影武者を務めたのも、後から振り返ると感慨深いエピソードですね。ただ、リチャードの半身としてのバッキンガムを象徴する話である一方、アンには、ウォリックを殺したのがリチャードだと認識されることになる複層的な伏線にもなるでしょう。
キングメイカー・ウォリックについて
今話は、ヨーク公に出会い、その王冠を夢想するウォリックの回想シーンから始まっています。『薔薇』のキングメイカーは、2代続けて一目で恋に落ちるように自分の王を選んでいるのですね。ウォリックについては、旧敵ランカスターを担ぎ上げてまでキングメイカーたろうとする自負や権力欲が描かれる反面、エドワードからの離反もヨーク公への忠誠ゆえであることがこれまでも示唆されてきました。最期近くになって、子供時代のヨーク公に対する憧憬が描かれます。しかも、彼のヨーク公への想いや忠誠が、戦いでの躓きの石になる展開です。
ヨーク公の方がヘンリーより王に相応しいと思う箇所とか、この後の、ヨーク公の面影を見て狼狽する箇所とかも、完全オリジナルなのか何かのオマージュなのかわからないところです。
この後に上述のリチャードの戦いの話が入り、そのためにウォリック軍が混乱して形勢が不利になります。そこにエドワード自身が単騎で突撃してきて、霧の中でもあるために、ウォリックにはそれがヨーク公に見えるんですよ。霧という背景と、ヨーク公とエドワードがよく似ていることが効いてきます。「私は全てを捧げた!貴方を王にするために!!」とヨーク公に言ったつもりのウォリックに、「そうだ!私がお前の王だ!」と答えるエドワード。なんて素敵な流れでしょうか。三角関係的でもあり、ヨーク公には心酔するウォリックは、エドワードとは愛憎なんですね。
エドワードは「お前を愛していたのに!」とまで言い、周囲に手を出させず一対一で剣を交えます。エドワードに剣術指南をしたのがウォリックというエピソードまで入るので、決死の対決なのにそれがどこか楽しそうでもあったり。ウォリックは剣では優勢に立ったにもかかわらず、そんな背景や、ヨーク公からエドワードを王に立てるよう頼まれたことが脳裏に浮かんでとどめを刺せず、そこを脇から攻められて落馬し、敗走します。
ウォリック この額の皺は、いまは無惨な血に汚されているが、かつてはしばしば王の墓場に譬えられたものだった、ウォリックがその墓を掘ってやれない王はいなかったし、おれが額に皺を寄せるとき笑えるものもいなかったからだ。(HⅥ)
HⅥでは死にゆくウォリックが諦念も交えながらかつての栄光を語るのですが、『薔薇』ではそれがまだ巻き返しを期する台詞にされています。〈こんな所で終わってたまるか、私が、この国を動かしてきたんだ……!王冠は、まだこの手の中にーー〉。ここでウォリックには陽の光も見えるのですが、この時背後から刺されてしまうのです。
ちょうどその頃、ウォリックが巻き返しのためにその戦力を頼みにしていたマーガレットがイングランドに上陸し、娘のアンが懐かしさと心配に捉われるという箇所で24話が終了します。