『薔薇王』にシェイクスピアをさがして

菅野文先生の『薔薇王の葬列』についてシェイクスピア原案との関係を中心にひたすら語ります

ナショナル・シアター・ライブ(NTLive)との思い出:配信とSNSとシェイクスピア

LiLyさん主催の企画「ナショナル・シアター・ライブ(NTLive)10周年記念企画 Advent Calendar 2023」に参加させていただきました、12月19日担当の成山です。

 

adventar.org

 

LiLyさんからバトンを渡していただきました。

fishorfish.hatenadiary.jp

フランケンシュタイン』と『善き人』鑑賞が重なっていて、更に感慨が!

 

ナショナル・シアター・ライブ(NTLive)との思い出

これは素敵な企画だと思い、SNSでの情報発信で恩恵を受けているフォロイーさん方も執筆予定なのを見て、“さ、参加したい”という気持ちと、“でも私なんか全然通ってないし……”という気持ちで揺れました。ですが、全然通っていなかったのは事実ながら、公開作品リストを見たら各年分いずれか1本以上は観ていたことがわかりました。2020年の無料配信とNTatHomeでキャッチアップできていたということだったのです。

 

www.ntlive.jp

 

最初の公開作品『フランケンシュタイン』や『コリオレイナス』は、NTLiveという意識もなく観に行っていて(『フランケンシュタイン』は2バージョンとも観に行ったのに、これが最初の公開作品だったのを今まで知らなかったくらいです)、その後2021年の『戦火の馬』再上映まで映画館では観ていませんでした……。『フランケンシュタイン』も『コリオレイナス』も忘れ難い作品ではありつつ、“NTLive”として意識したのは、コロナ禍の時期に配信で楽しく過ごさせてもらい、観たかった作品をNTatHomeで観せてもらったことによるのでしょう。作品に関心がなかった訳ではないものの、関心を向ける余裕がなかったり、うまく情報をキャッチできなかったり、短期間上映で都合が合わなかったりして脚が遠のいた面もありました。

 

ですので、私のナショナル・シアター・ライブの思い出は、何と言ってもこの無料配信とNTatHomeで様々の作品に出会えたこと、加えて配信をきっかけに、SNSで情報をもらったり皆さんの感想を読んだりするようになったことです。上映・配信スケジュール情報や、書かれた感想や作品紹介に触発されて配信を観たり、映画館に行ったりしたことも少なくありません(それで映画館に行ったのは今年のみですが)。“○月○日から〇〇が配信だよー”とか、“〜〜がすごい”とか、“こういう演出があって”といった発信がありがたく面白さも増しました。気づけば私も“リツイート”したり配信情報をまとめたり、ブログに感想を書いたり、旧twitterでお勧めしたりしていました。コミュニティの端に混ぜてもらったような楽しさもあります。それもあってこの企画に参加したい気持ちになりました。

 

2020年の無料配信を楽しんだ後にNTatHomeに時々加入して、今年は、これもあまり意識しないまま7作品中6作品を映画館に観に行っていて、期せずしてV字回復(?)を成し遂げた10周年でした。

 

「ナショナル・シアター・ライブ(NTLive)が日本に上陸して10周年」という企画趣旨からは外れるかもしれませんが、NTatHomeができたおかげで、なかなか都合がつかない人や、上映地域から遠い人も楽しめ、わいわいできる状況になってきたと思います。私自身は少し遠出すれば映画館上映も観られる環境ではあるものの、東京には遠いので再上映を観る機会にはあまり恵まれず、週末に行けないと一寸無理かとなりがちです。

 

NTatHomeでは、私はシェイクスピア作品しか観ていない、あ、いえ、シェイクスピア作品を中心に観ている(と虚勢を張らせて下さい)のですが、あまり英語ができなくても、翻訳本が出ている作品なら本を片手に観てなんとかなると思います。あるいは、webで解説や感想が書かれていることも多いので、それを頼りにしながら観るのもありかもしれません。ケイさんの記事みなみさんの記事を真似て私も過去上映の星取表をこの下に作ってみましたが、翻訳がある作品は大抵本を片手に観ました。日本語上演を観て話も知っているからと本なしで観た『欲望という名の電車』は“惨敗”の感もありましたが、翻訳がないものでも★作品についてはwebで作品情報や感想を読んでなんとかなった印象です。

 

少々不便はありつつ、ニコラス・ハイトナーやサイモン・ゴドウィン演出のシェイクスピア作品はとても楽しめました。ハイトナーの『オセロー』『ジュリアス・シーザー』『夏の夜の夢』、ゴドウィンの『十二夜』『ロミオとジュリエット』、今年上映されたクリント・ダイアー演出の『オセロー』は、特に弱者や敗者に対する解釈の美しさを感じました。『ジュリアス・シーザー』でもキャシアスを女性にしていたり、ブルータスにダメなところがあったり。その演出=解釈にはっとして、そうした視点の美しさや優しさに“ありがとう”という気持ちになります。悲劇も多いし、時に政治的・批判的観点も入っていますが、演出の視点が好きな作品達です。

 

本を片手になんとかなると言っておいて前言を翻すようですが、その後で映画館で観ると日本語字幕のありがたさが身に沁みます。何も怖くないというか、すごくリラックスして作品に没頭できるというか。でも、本片手でも、観る機会が得られるのは嬉しいのです。

 

実を言えば、他ならぬNTLiveの最新公開作品『善き人』と今の情勢とのダブルパンチで気持ちが落ち込んでしまい、少し忙しかったこともあって、鑑賞も停滞気味になっていました。この記事が気持ちの切り替えになるかもしれないし、ならないかもしれません。でも、少し休んでもNTatHomeがあると思うとあまりやきもきせずにすむのもありがたいところです。

 

この下からは感想記事のリンクと短い感想を入れた一覧(星取表)です。

 

明日は駒止さんによる記事です。日程が合わず、今年の上映で唯一観られなかった『レオポルトシュタット』に関する記事のようなので私も楽しみにしております。

 

Unsplash  Alexander Grey

 

NTLive10年間のラインナップと観た作品 + NTatHomeのみ公開で観た作品

★が観た作品、色つきはブログ内の感想リンクにしており、クリックで記事に飛べます。ブログ内リンクがない作品に短い感想を入れました。

 

2014年

フランケンシュタイン★コリオレイナスオーディエンス、リア王(サイモン・ラッセル・ビール主演、サム・メンデス演出)、ハムレット(ローリー・キニア主演、ニコラス・ハイトナー演出)、★オセロー(エイドリアン・レスター&ローリー・キニア主演、ニコラス・ハイトナー演出)

 

フランケンシュタイン』はかなり好きな作品で、映画館で観て2020年の配信の時も観たのに、時間が経つと長い感想を書くのは難しくなってしまうものですね。これは怪物が生まれる(?)冒頭シーンで心をつかまれ、早くもそこで観にきてよかったと思いました。映像とはいえ舞台ならではのよさがあり、その他の場面でも舞台の美しさを味わえます。どちらのバージョンもよいし、せっかくの交代キャストなので2本観る面白さもあります。2020年の配信時に、ジョニー・リー・ミラーの怪物には心の美しさを、ベネディクト・カンバーバッチの怪物には本来的な知性を感じる、とツイートしていました。全くの個人的印象ですが。


2015年
★欲望という名の電車二十日鼠と人間、スカイライト、宝島


2016年

★ハムレット(ベネディクト・カンバーバッチ主演、リンゼイ・ターナー演出)、夜中に犬に起こった奇妙な事件、人と超人、ハードプロブレム、★戦火の馬

 

『戦火の馬』皆さんご存知のパペットを使った舞台。ずっと観たかった作品でした。ストーリー的には辛い話も入ってくるのにもかかわらず、観ている間の多幸感が半端なかったです。


2017年
ハングメン、三文オペラ★深く青い海、誰もいない国、★お気に召すまま、一人の男と二人の主人、ヘッダ・ガーブレル

 

『深く青い海』は翻訳があるのを知らなくて、英語字幕だけでなんとかなったのが自分でも不思議です。ネットでストーリーなどを検索したのかもしれません。元空軍パイロットと駆け落ちした人妻の、どうにも埋められない虚しさみたいな内容がとても刺さりましたし、舞台装置のよさと美しさも醍醐味だと思いました。


2018年
エンジェルス・イン・アメリカ、ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ、アマデウス、イェルマ、フォーリーズ、ヤング・マルクス★ジュリアス・シーザー

 

アマデウス』の配信で、サリエリ役のルシアン・ムサマティを初めて知りました。ムサマティが、黒人キャストがサリエリを演じるのを観客がどう思うか挑戦になる、といったことを語っているのを読みましたが、私はそこは全く気にならず、彼の少しユーモラスな演じ方によって私内サリエリ像が刷新されたように感じました。別プラットフォームのロイヤル・シェイクスピア・カンパニー『オセロー』の話になってしまうんですが、ムサマティのイアーゴーもお勧めです。下のロミジュリでは、ロレンス修道士をこちらは峻厳な雰囲気で演じていて再度意外に思ったり。

 

2019年
マクベスヴァージニア・ウルフなんかこわくない★リア王(イアン・マッケラン主演、ジョナサン・マンビィ演出★英国万歳!アントニークレオパトラアレルヤ!、リチャード二世、みんな我が子、イヴの総て

 

『英国万歳!』は、主演のマーク・ゲイティスの、『SHERLOCK』でのマイクロフトとは全く違う風情を楽しんだ、ぐらいしか……鑑賞眼が浅くてすみません……。

アントニークレオパトラ』は何作品か観てもどうもピンと来なくて、これは私と原作との相性が悪いのだろうと思います。ただ、振り返るとゴドウィン版は、最初からアントニーが既に負けている感があったり、オクテーヴィア役に工夫があったりで、他版よりやはり弱者への眼差しがあったかもしれません。

 

2020年
リーマン・トリロジー、フリーバッグ、★スモール・アイランド★夏の夜の夢、プレゼント・ラフター、シラノ・ド・ベルジュラック、ハンザード

 

『スモール・アイランド』は第二次世界大戦後にジャマイカからイギリスに移住した男女と、イギリスの田舎からロンドンに出てきた女性がメインの話でした。憧れのイギリス生活のはずが悲しいほどの狭い部屋……というのが装置で実感できました。教育・教養があるのに移民先では仕事も待遇も下降移動するという現在でも起こる課題や、複合的な差別もうまく捉えられていて、そこは辛くもありつつ、演劇的見せ方も含め明るさを感じる作品だと思います。

星にない『プレゼント・ラフター』は、今一番観たくて、再上映かNTatHomeに入るのを待っている作品です。出かける準備までしながら、これでコロナ罹患したらその方が後悔が大きいな、と断念しました。評判の『リーマン・トリロジー』と『シラノ』もいつか観られたら嬉しいです。


2021年
メディア、★十二夜ジェーン・エア

 

2022年
★ロミオとジュリエットブック・オブ・ダスト、プライマ・フェイシィ、ヘンリー5世、ストレイト・ライン・クレイジー

 

星なし『ヘンリー5世』はシェイクスピアでatHomeにも入っているのに、私、基本的にヘタレなので……絵的にウクライナ侵攻を想起させる気がして、しかも内容が内容だし、で、腰が引けてしまって観ていないのです。

 

2023年
オポルトシュタット、★かもめ★るつぼ★ライフ・オブ・パイ★オセロー★ベスト・オブ・エネミーズ★善き人

 

『善き人』は感想まで書いたものの、私には相当きつい作品でした。きつかった点では『るつぼ』と『ベスト・オブ・エネミーズ』も同様です(『ベスト・オブ・エネミーズ』も私にはきつい作品に入ります)。一仕事終わったご褒美のつもりで内容を把握しないまま観に行ったら、余計に辛くなってしまった、みたいな……。『善き人』は覚悟して行ってもきつかったんですが、多分それは抱えるしかなくて、そこまでの力を持つ作品ということだと思います。

 

おまけ:日本未公開(NTatHomeのみ)で観た作品

★どこいったん(I want my hat back)、★令嬢ジュリー 、★フェードル★間違いの喜劇★やけたトタン屋根の猫(『間違いの喜劇』は配信終了)

 

『どこいったん』は、やはり演劇としての作りがよく、観客の子ども達の反応も可愛らしくてそれが一緒に観られるのもよかったんですが、その子ども達にこのラストか……と。『令嬢ジュリー』は、階層を人種に置き換える工夫がされていたものの、内容的に現代化するのがやや厳しい気もしました。元戯曲が微妙に現代に近いので違和感を感じるのでしょうか。シェイクスピアバロックオペラだと、無理はあっても現代への変換が面白いと思えるのに、こちらは面白いけれど無理があるという気持ちが勝ってしまいます。『フェードル』はミニマルな舞台が美しかったのですが、私には渋すぎたかなという感じ。『間違いの喜劇』は『善き人』のドミニク・クック演出でもテイストは全く違って楽しかったです(当たり前?)。『やけたトタン屋根の猫』については、これを観て『欲望という名の電車』の解像度が上がった気がしました。